木曜日, 1月 09, 2014

倍返しの殺伐



突然耳がおかしくなった。
生まれて初めて経験する痛みと不快感から、思わず大声が出た。


その声に驚いて、まどろんでいた彼女がびっくりして飛び起き、俺の顔をのぞき込む。
バカな俺から見ると聡明で何事もテキパキとこなし、まるで全知全能の女神のような彼女

とは言え、ごく平凡な一女性であり、彼女にとっても俺と過ごす毎日は一々初体験の連続だから俺の急変に慌てるばかり。

何事も彼女を頼ってきた自分。
今まで二人で経験して来た事全て、彼女の献身的な働きで数々のピンチを乗り切ってきた。

今回も適切な処置で痛みは取れたのだが、得体のしれない不快感は残っている。


手足どころか首も満足に動かせない自分にとって、周囲の状況は彼女の表情からしか掴めない。 その彼女が不安気にオロオロしている。

さっきの大声で、どうやら彼女ばかりではなく近くで寝ていた人まで起こしてしまったらしい。
迷惑を掛けたのは申し訳ないが、文句を言うその人だって、俺と同じ経験をした事があるはずだ。


ならば手助けしてくれれば良いものを、俺の最愛の彼女に向かって「手際が悪い」だの「やり方が違う」だのと、助けてくれるどころかまるで喧嘩を売っているかのように彼女に絡んでくる。

彼女の身が危ない!!

俺は身動き出来ない身体を呪ったが、自分に出来る唯一の方法で対抗しようと決心した。





ボクのママをいじめるな~!!




新幹線に限らず、閉じこめられた空間で泣きわめく子供に発言権を与えたら、きっとこんな風ことを言いだすんじゃないだろうか。


子供連れで旅をするのは憂鬱なものだ。

今は一人っ子が多いから、殆どの親が初めての経験をし、そしてその経験を次に生かすことなく子育てを終える。

憂鬱な旅であっても数回我慢すれば済むから、失敗から学んで洗練させる必要もない。


かくして、毎回同じ様な騒動が繰り返される。


問題は世の中に蔓延る”倍返し”の発想。


「泣き声でイラついたから、睡眠薬を飲ませろ」なんて、、、何倍返しなんだろ。


2014年の平和な日本で、「露助に見つかると皆殺しにされるから、泣き喚く赤ん坊は殺せ」そんな時代錯誤の悪夢が蘇ろうとしてる。


余りに寒々しい話に凍り付いて、シベリアせんかと心配になるがもう少しお付き合い願いたい。

ホリエモンは「そもそも正月に帰省する必要があるのか」とまで脱線する暴走機関車だから、その派手な論説にばかり目が行って、問題の本質がボケてしまう。





赤ん坊の泣き声が気に障るのは、赤ちゃん自身の生存が掛かった必死の警報だからだ。

「何とかしてあげないと大変な事になる」ヒトは本能的に知っているから他人の子供の泣き声でも心が泡立つ。


まして我が子なら尚のこと、一番慌て「どうにかしなくちゃ」と焦ってるのは親に決まっている。

何人も子育てして経験を積んだ親なら対処の引き出しも豊富だろうが、新米親にそれを求めるのは酷な話だ。


ほんの少し昔の日本だったら、子育て経験豊富なおばちゃんが助け船を出してくれただろうが、今やそういう人は絶滅に近い。


孤立無援の上、周りからプレッシャーをかけられた経験を持つホリエモンさんなら、きっと親子に同情すると思ったのだが、、、


「やられたらやり返す」


倍返しかよ。



そんなギスギスした世の中、大人の俺でさえ怖い。

「子供の泣き声は迷惑だ!」確かにそう主張する権利はあるのだろう。

けれど、一方的に権利を振りかざす事が、逆に子供の泣き声は大きくしている可能性と、誰もが幼児期を過ごして大人になった 事実をもう一度考えてもらいたい。



睡眠薬で静かにさせろ
子連れは社会に出てくるな

そんな過激な意見が多くてビックリしてる。

他者に対して不寛容なら、自身に対してはそれ以上に厳格であるはず。

ざっと世の中見渡して、自分を厳しく律する人などホンの一握りだし、希に出会ったとしてもそうした人は他者に優しい場合が殆どだ。

自分に甘く他人に厳しい人ばかりなんだけどな。